恐喝罪(きょうかつざい)とは、暴力を背景にしたり、暴力を用いたり、相手の弱みを握るなどして脅迫すること等で相手を畏怖させ、金銭その他の財物を脅し取ることを内容とする犯罪です。
刑法249条に規定されています。
刑法249条
人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する(財物恐喝罪)
前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする(利益恐喝罪、二項恐喝罪)。
構成要件
客観的構成要件
1社会通念上、相手方を畏怖させる程度の脅迫または暴行を加えること(恐喝行為)
2恐喝行為により相手方が畏怖すること
3相手方がその意思により、財物ないし財産上の利益を処分すること(処分行為)
4財物ないし財産上の利益が、行為者ないし第三者に移転すること
また、1から4の間に因果関係があることが必要ですので、バラバラな場合には当てはまりません。
この要件に照らし合わせて恐喝罪に該当するかどうかを判断されます。
(1)暴行や脅迫を用いたか
恐喝罪の構成要件に該当するためには、暴行や脅迫を用いることが必要です。脅かす要素がないと恐喝にはなりません。
たとえば、人に対して殴る、蹴るなどの暴行を加えたり、「金を出さないと殺すぞ」と脅迫したりすると恐喝になります。
また、被害者が違法な行為をしていることを知り、「口止め料を支払わないと警察に告発するぞ」と言った場合も脅迫に当たることがありますが、例えば、覚醒剤を使用している弱みを握られて、金銭を要求されたとします。
この場合で、警察に行っても、刑事事件になったとしても、覚醒剤の件は別の理由なので、被害者も逮捕されると思います。
弱みの材料が違法行為であれば、それはそれで別の事件なので、例え恐喝されてても別の刑事事件になります。
恐喝罪は、暴行や脅迫は、財物を交付させることに向けられなくてはなりません。
たとえば、通行人に突き当たりをし、相手が驚いているすきに財物を奪ったという場合、突き当たるという暴行行為に及んではいるものの、「財物を交付させるための」暴行にはあたらないので、恐喝罪は成立せずに窃盗罪になるでしょう。
恐喝罪と同様に、暴行や脅迫を加えて他人の財物を奪う犯罪として強盗罪があります。
強盗罪と恐喝罪の違いは「相手を抵抗できない状態にさせる程度の暴行、脅迫がなされたかどうか」という点にあります。
身近な実例で、コンビニにはいり、ワンカップのお酒を盗もうとして、制止しようとした店員を殴って、ワンカップのお酒を盗んでしまうと強盗罪になります。
もう一つ実例で、夫婦が、スーパーでスーパーのカゴに品物を山盛りに入れて、カゴごと盗もうとしました。
窃盗した夫婦は、お店を走って逃げ車に乗り、追いかけてきた警備員の足を踏んで逃げました。これも強盗罪に該当致します。
強盗のイメージは銀行強盗がありますが、銀行強盗のような大それた事をしなくても強盗罪として成立します。
他に実例として相手に銃を向けて「金を振り込まないと撃つぞ」と脅迫した場合は、相手は生命の危機を感じて抵抗できなくなるため、強盗罪に該当します。
ちなみに、強盗罪として立件されてしまうと、執行猶予はつきません。
初犯でも実刑確定です。
(2)被害者が畏怖(恐怖)を感じたか
暴行や脅迫によって被害者が畏怖(恐怖)を感じたかどうかも、恐喝罪の成立に必要な要件です。
最終的には、加害者の言動や行動が一般的(誰でも当てはまるような)に相手に畏怖を感じさせるものであるかどうか、という観点で客観的に判断されます。
被害者自身が畏怖と感じたかどうかは被害者の感情によるものなので人によって異なります。
加害者が「この程度の言動で……」と思うような暴行や脅迫だったとしても、被害者が畏怖を感じた場合は恐喝罪の要件に該当する可能性があります
(3)被害者が畏怖(恐怖)により金銭その他の財物を処分したか
被害者が畏怖(恐怖)により金銭その他の財物を処分しなければなりません。
例えば、脅かしを受けたものの、被害者が「そんなにお金に困っているのであれば可哀想だからロ同情し援助してあげよう」という気持ちで金銭を交付したのであれば、畏怖(恐怖)を感じておらず、畏怖(恐怖)により金銭を交付したといえませんので、恐喝罪には該当致しません。
被害者自らが金銭またはその他の財物を処分する場合のみでなく、被害者が畏怖して黙認していることに乗じて加害者が金銭またはその他の財物を取り去る場合も恐喝罪に該当します。
恐喝の構成要件に当てはまるのです。
(4)金銭その他の財物が加害者または第三者に渡ったか
加害者の暴力や脅迫行為によって被害者が畏怖を感じ、被害者の所持していた金銭や財物が加害者または第三者に渡った、
あるいは加害者や第三者に渡ることを加害者が黙認した、という結果が必要です。
たとえば、加害者の脅迫により被害者が畏怖を感じ、財布を加害者に渡した後、加害者がその財布を自分のポケットに入れた場合、財布は加害者に渡ったと判断されます。
主観的構成要件
故意のほか、不法領得の意思が要求される。この点は、他の領得罪※と共通である。
※領得罪(りょうとくざい) 財産罪の一種。他人の財産的利益を不正に利得する犯罪
行為
行為の客体
恐喝罪の客体は「財物」(財物恐喝罪)又は「財産上の利益」(利益恐喝罪)である。原則として、他人の財物、他人の財産上の利益が客体であるが、自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、他人の財物とみなされます(刑法251条・242条)。
また、電気も財物に含まれます(刑法251条・245条)。
行為の内容
恐喝罪の行為は、人を恐喝して財物を交付させることです。
「恐喝」とは、脅迫または暴行であって、反抗を抑圧する程度に達しないものをいう。
もっとも、脅迫の程度が単に威圧感を与えたり困惑させたりするにとどまるような場合は該当しない。
いわゆる子供がおこなうようなカツアゲも恐喝の一種です。
権利行使と恐喝
債権の取り立てなど権利行使がされる際、ときに大小の脅迫行為がされることがあるが、この場合、恐喝罪の成立が問題となり、無罪説、恐喝罪説、脅迫罪説が存在する。
この点については、恐喝罪が成立しうるとしつつ、取り立てる金品の額が有効な権利の範囲内であり、かつ、方法が社会通念上是認できる範囲に止まる限りにおいてのみ違法性が阻却されるとする見解が有力である。
未遂罪
恐喝罪の未遂は処罰される(刑法250条)。
暴行や脅迫により債務を免れるなどの行為が該当する。例として羽賀研二未公開株詐欺事件があります。。
法定刑
法定刑は10年以下の懲役です。
恐喝罪を犯した場合の刑罰は、懲役刑のみです。
懲役刑とは、受刑施設に拘禁して労務作業を行わせる刑で、身体の自由に対する刑なので自由刑のひとつです。
自由刑に対し、財産を取り上げる財産刑というものも存在します。自由刑と財産刑を比較すると、身体の自由を奪われる方が肉体的、精神的苦痛が大きいので、自由刑の方が重いと考えられています。
懲役刑のみしかない恐喝罪は、重罪と考えられていることがわかります。
但し執行猶予つきの判決が出れば実刑は免れます。
親族間の犯罪に関する特例
親族間の犯罪に関する特例の規定が準用されている(刑法251条・244条)。
他の犯罪との対比
窃盗罪とは、財物を領得する点では共通するが、相手方の意思による処分行為に基づく必要がある点で異なる。
強盗罪とは、脅迫を手段とする点では共通するが、脅迫の程度が相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものである必要がない点で異なる。
詐欺罪とは、相手方の意思に基づく処分行為を要する点で共通するが、人を「欺く」ことではなく、人を「脅迫する」ことにより財産を処分させる点で異なる。
強要罪とは、「脅迫を加えること」「相手方が畏怖すること」「相手方がその意思により、行動すること」が共通するが、強要罪は、その行動の結果が脅迫者が指定する相手方への財物の交付又は財産上の利益の提供でないこと、また、恐喝罪は「義務あること」であっても成立するが、強要罪は成立しない点で異なる。
備考
恐喝罪の公訴時効は、刑事訴訟法第250条4号により、7年です。
警察庁は、恐喝を覚せい剤取締法違反、賭博、ノミ行為等(公営競技関係4法違反)と並ぶ暴力団の「伝統的資金獲得活動」の一つとして扱っています。
上記、恐喝罪について説明をしましたが、実際は、恐喝罪の構成要件に当てはまるにもかかわらず、刑事事件にさえならない例は多いです。
恐喝罪においても、実害がある以上は、加害者側に対して、民事訴訟を起こせます。
しかし、勝訴したからといっても、必ずしも金銭的賠償があるわけではないのです。
【民事裁判の勝訴 = 相手が必ず金銭を支払う】
ではありません。
加害者側の人間が、民事裁判の勝訴が通用する相手ではない場合もあります。
勝訴と相手が支払うこととは、全く別の問題ですので気をつけましょう。