脅迫罪


脅迫罪(きょうはくざい)とは、相手を畏怖させることにより成立する犯罪のことです。
日本の刑法では刑法第222条に定められている犯罪で、未遂罪は存在しません。
「刑法 第二編 罪 第三十二章 脅迫の罪」に、強要罪とともに規定されています。
尚、金品を略取(強取)する目的で行う場合は恐喝罪、強盗罪が成立するため、脅迫罪とはならないのです。

刑法条文や事例で学ぶ脅迫罪の成立要件
相手を脅すこと全般を指して「脅迫」という言葉は良く使われます。
しかしながら、全てが脅迫罪となるわけではありません。
また、脅迫罪ではなくより重い罪に当てはまっている可能性もあります。ここでは脅迫罪・強要罪の定義と事例を説明します。

(脅迫)
第222条  
1 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2  親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。

脅迫罪においての脅迫は、人の生命、財産、身体、名誉、自由(通説によれば貞操や信念も含みますが実際は、なかなか刑事事件としてはなってません。)に対して害悪する告知を行うことです。
相手が恐怖心を感じるかどうかは問わないです(抽象的危険犯)。一般的に誰が聞いても脅かしている表現なら脅迫罪として当てはまります。 

脅迫の成立要件(構成要件)
刑法の条文(第222条)では、脅迫罪を次のように規定しています。
生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。

脅迫罪の判断で難しいのは、この「害を加える旨を告知」という部分で、どの程度で「害」とみなすのかがポイントとなるのです。

尚、「害を加える旨を告知」はよく「害悪の告知」と言われます。

害悪の要件と脅迫罪となる例
「害悪」に該当するには、次の二つに該当しなければなりません。
一般的(客観的)に恐怖を感じるもの
加害者の関与によって引き起こすことできると感じられるもの
一つ目に関しては、被害者が恐怖心を抱くか否かに関わらず、客観的に見て恐怖を感じる内容であれば十分に脅迫に当たります。
裏を返せば、たとえ被害者本人が恐怖心を抱いても、一般的には恐怖につながる内容でないのであれば、脅迫罪と認められない可能性が高いです。

一般的に恐怖を感じる内容とは、「殺す」「殴る」「バラす」「拷問する」といった具体的な行為だけでなく、「おまえこの先どうなってもいいんやな?」といった抽象的であっても、危害を加えるととれる内容であれば脅迫罪に当たります。
一方で、単に一部の言動だけをもって恐怖に値するかの判断はできません。例えば、「殺す」という言葉は冗談で使われることも多いのですが、そのような状況下では恐怖には値しないため、脅迫罪とはなりません。

二つ目に関しては、恐怖を感じる内容であっても、それが加害者が意図的に引き起こすことができると考えられるものでなければなりません。
例えば、「大地震が起きて死ぬぞ」「洪水が起きておまえは溺れ死ぬぞ」と言っても、加害者が地震や洪水を起こせるわけではないため、恐怖心の有無に関わらず脅迫罪とはなりません。

「火事が起きておまえは焼け死ぬぞ」の場合には、加害者自身が放火することも考えられるため、脅迫罪となる可能性が高いです。
また、「ヤクザの友人に頼んでおまえのことをさらわせる、半グレに頼んでおまえを痛い目に遭わせてやる」というように、加害者本人が危害を加えなくとも、加害者の言動が発端となる場合にも脅迫罪に該当します。

脅迫の対象となる利益は、罪刑法定主義から列挙されたものに限定されると解されています。 
問題になる利益としては、貞操、(財産上の)信用、交際(村八分)などがあげられています。
脅迫の対象となる人物は、被害者本人(1項)か、「親族」(2項)に限られる。 
具体的には、「お前の孫や子供を殺す」と言われた場合は脅迫となるが、「お前の恋人を殺す」と言われた場合は脅迫にはならない。ただし「お前の夫(妻)を殺す」は脅迫になる。
罪刑法定主義の要請である(ただし、養子縁組前の養子又は養親や内縁関係にある人物に対する害悪の告知が脅迫罪を構成するかどうかは講学上争いがあります)。尚、ストーカー規制法では「つきまとい行為」の刑事罰について「その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者」も対象としている。
法人に対して脅迫罪が成立するかどうかは争いがあるが、保護法益から考えて、成立しないという下級審裁判例がある。(ただし、代表取締役など法人の機関である人物に対する脅迫罪は成立する。)

判例によれば、口頭や書面に限られず、相手方が知ることができれば成立する。態度であってもよい。ただし、審議では口頭は被疑者の発言証拠が必要であり、書面は尚更です。 
具体的には、集落においてある住民に対して絶交の決議をし(いわゆる村八分)、被絶交者がその決議を知った場合である(大判大正13年11月26日刑集3巻831頁)。
内容
「一般人が畏怖するに足りる」ものであればよい。「殺す」という言葉のほかに、「刺す」「しばく」「どつく」「殴る」「埋める」「くらす」なども該当し、「何をするかわからない」などと暗に加害行為をすることを告げる場合でも成立する。これも前々項と同様、審議では被疑者の発言証拠等が必要である。 
必ずしも犯罪行為に限られないというのが判例である。正当な行為を告知して脅迫になるのはおかしいという学説もある。 
「お前の不正を告発するぞ」と言った場合、真実の追究が目的ではなく、単に畏怖させる目的であれば脅迫罪は成立する(大判大正3年12月1日刑録20輯2303頁)。
害悪は、告知者が関与できる、と一般的に感じられるものでなければならない(ただし、害悪の告知時に実際に関与できている必要はない)。害悪をもたらす人間が告知者以外の第三者であってもよい(間接脅迫)。 
「君には厳烈な審判が下されるであろう」と告げるのは、害悪の告知に当たらない(名古屋高判昭和45年10月28日刑月2巻10号1030頁)。
「人民政府ができた暁には人民裁判によって断頭台上に裁かれる。人民政府ができるのは近い将来である」と告げるのは、脅迫罪に当たらない(害悪が被告人自身または被告人の左右し得る他人を通じて可能ならしめられるものとして通告されたのではないため。広島高松支判昭和25年7月3日高刑3巻2号247頁)。
「俺の仲間は沢山居つてそいつ等も君をやつつけるのだと相当意気込んで居る」と告げるのは、害悪の告知に当たる(最判昭和27年7月25日刑集6巻7号921頁)。

以上、脅迫罪について説明をしました。実務的には、上記に当てはまったとしても、刑事事件にならない事例が多いのが実情です。